一度は退職も考えた職人が、窮地を脱し社員職人を育てるまでに成長できた理由

【PROFILE】
奥山 弘樹(おくやま ひろき)。低層工事部 施工課所属。高校の3年間は相撲部に所属。高校1年生にして、インターハイ・団体戦にて先鋒として出場。入部3ヶ月で、75kgあった体重は100kgまでになったという。高校卒業後、新聞社で配達員を勤めていたが、前職の同僚からの紹介で、1997年に職人として大久保恒産に入社。現在は社員職人として、施工課の新人職人たちの指導にあたっている。※2021年現在、相内組へと異動。
「分かりません」「できません」と言えずに苦労した職人時代
奥山は、1997年に大久保恒産に職人として入社。前職の同僚からの紹介がきっかけだった。
「新聞配達の仕事に、飽きちゃったんですよ(笑)。私は中学、高校と相撲部でずっと体を動かしていたんで、外で汗をかいて、体を動かす仕事がしたいなあと思っていたんです。そしたら、同僚が『外仕事好きなら、いいところがあるよ』って大久保恒産を紹介してくれました」
入社後は、1週間ほど置場での研修を経て、工事部に配属された。
現場に行っても、何をどこに運んだら良いのか、誰を手伝えば良いのか、そもそも何から始めたら良いのか分からない。分からないからといって突っ立っていていると、「なんだお前!ボーッとしてるんじゃねえ!」と怒られる。「足場職人」という仕事を未経験からスタートした奥山にとって、右も左も分からない状況だった。
プライドが高いのか、完璧主義なのか、奥山は「分かりません」「仕事が終わりません」という言葉が言えなかった。多少時間がかかってでも、試行錯誤しながら一人で仕事をやり遂げる姿勢を貫いていた。しかし、その行動はさらに自身を追い詰めることになってしまう。
「『仕事が終わりません』って言ったら怒られるんじゃないか、って怖かったんです。終わらないって言えないから終わるまでやるしかなくて」
上司に「仕事が終わらない」という報告ができずに、一人で22時まで仕事をすることもあった。近隣の住民から『うるさい』というクレームが会社に入り、「どうしてこんな時間までやっているんだ」「なぜ報告してくれないんだ」と怒られる日も少なくなかった。
奥山は完璧主義から抜け出せず、とうとう上司から「仕事が終わらないから、お前の工程を軽くする」と言われてしまう。
「自業自得ですけど、ショックでしたね。当時は仕事に行きたくなくて、朝がくるのが辛かったです」
憂鬱な朝が増えていき、奥山は退職も考えるようになった。とにかく落ち込んでいた。
「あったかいんですよね、大久保恒産って」上司に支えられながら成長した3年間
そんな奥山に、転機が訪れる。
当時は「単管足場(単管パイプにブラケットを付け、足場板を敷きその上で作業。ボルトを締めて組み立てるので、しっかりと組まないと揺れやすい)」が主流だったが、現在の主流である「ビケ(クサビ)足場(ハンマーを使いブラケットを差し込んで組み立てる足場。単管ブラケット足場よりも、板が幅広く、揺れも少ないので作業しやすい)」をやってみないか?と番頭から誘われたのである。
新しい領域に挑戦したら、この状態から抜け出せるかもしれない。奥山はビケ足場で仕事をすることに決めた。そこで、奥山の上司になったのがベテラン社員職人の鈴木である。奥山は「あのどん底な状況から救ってくれたのは鈴木さんです。もう本当に頭が上がりません」と話す。
「落ち込んでいる私を見て、鈴木さんが『そんなに深く考えるな。そんなに悩むのはバカだ』って笑い飛ばしてくれました」
「仕事なんて適当でいいよ」という冗談を口癖のように繰り返す鈴木。それは、奥山が落ち込んでいるのを見てのことだったのであろう。奥山は、そういった鈴木の言葉や気遣いに救われた。
写真の方が社員職人の鈴木さん。
大久保恒産には、厳しさの中にもあたたかい人間関係がある。上手くいかない時期が続いても、自信をなくしても、続けることができたのはこの人間関係があったからだと奥山は振り返る。
「あったかいんですよね、大久保って。みんな気にかけてくれるんですよ。仕事だけじゃなくて、プライベートもです。感謝しかありません」
奥山は悩むことをやめて、ただただ懸命に働いた。失敗しても、落ち込んだ気持ちは翌日に持ち越さずに、失敗から学んで挑戦を重ねていった。
鈴木に支えられながら成長していった3年間には、数えきれないほどの思い出があるそうだ。
「鈴木さんと行動するようになってから迎えた最初の夏のことです。私たち足場職人はトラックで移動するじゃないですか?夏だし、熱いし、力仕事だしでもうヘトヘトで、鈴木さんに運転していただきながらうっかり寝てしまったことがあったんです。そしたら鈴木さんは急ブレーキかけて、その衝撃で目覚めたら図面が飛んできました(笑)。『お前、図面のこの意味が分かんのかこの野郎!』って。
それからは眠くなったら、クーラーの前で目を無理やりこじ開けていました。鈴木さんは『眠いのか?』って言いながら爆笑していましたね(笑)」
恩人である鈴木のことを、奥山はこう語る。
「鈴木さんは、オンオフがはっきりしているんですよ。いつもは笑っていて細い目も、現場に一歩入ったらカッと開くんですよ。すごく鋭い目で、厳しく育ててもらいました」
育てるからには、プロになってもらいたい。大久保恒産の足場職人として誇りとプライドを持って仕事をしてもらいたい。そんな思いを持つ鈴木から、愛情深く、そして厳しく育て上げられた。
「奥山さんとは仕事に行きたくない」職人がついてくる親方とは?
3年が経ち、足場職人として成長を遂げた奥山は、親方を務めるようになる。
しかしここでも、壁にぶつかった。職人をうまくマネジメントできなかったのである。原因は、職人とのコミュニケーションの取り方にあった。
「やっぱりある程度職人に仕事や自分のやり方を分かってもらわないと大変だから、きつい口調になってしまいましたね。当時は焦りとか、威厳を保とうみたいな意識があったのかもしれません」
次第に、奥山は職人と喧嘩するようになり、関係はギクシャクするようになった。職人が番頭に「奥山さんとは行きたくないから親方を変えてくれ」という相談をするようになり、職人の交代が繰り返されるようになった。
「このままではいけない」そう感じた奥山は、先輩に相談した。先輩は「使い方だよ」と答えたそうだ。
「頭にくることも時にはあるかもしれないけど、そこで頭ごなしに怒鳴るのと、一歩ひいて冷静になってから『何故ダメなのか』を伝えるのとでは伝わり方が全然違うんだよ。そして、頑張ってくれて良く出来たときは、その感謝も伝えないと職人はついてこないよ、と教えてくれました」
確かに、自分が今まで頑張れた理由は、厳しくも愛情深く育ててくれた先輩たちのおかげである。
奥山は変わった。「違う」と叱るのではなく、そのやり方がなぜ危険なのか、なぜ効率が悪いのか、理由を伝え、改善方法を提案した。日頃の感謝を伝えたり、褒める回数も増えた。
「自分が変わったら、職人の反応が変わりました。今まではあまり言えなかった感謝や『君すごいね!』といった褒め言葉を伝えると、職人も頑張ってくれるんですよ」
職人とうまくコミュニケーションが取れると仕事が円滑に進むようになった。奥山は親方として順調にキャリアを積んでいく。
写真右の女性は、現在奥山さんと同じチームで働いている女性職人の中嶋さん。中嶋さんのインタビュー記事『子供の頃からの夢を諦めてまで大久保恒産で働こうとした理由。』もあわせてご覧ください。
先輩たちから学んだことを、今度は自分が次世代へ伝えていきたい
今では社員職人として、新卒で入社した新人の職人チームを育てている。紆余曲折ありながらも数々の壁を乗り越えてきた奥山だからこそ、これからの大久保恒産を創っていくメンバーに伝えられるメッセージがある。一筋縄にはいかなかったからこそ、状況や気持ちを分かってあげられる。
「色々と経験させてもらって、たくさんの先輩方から学んできたことを、今度は自分が次の世代に伝えていきたいなと思っています」
奥山のチームは、いつも笑いが絶えない。毎朝チームで円陣を組み、「声だしていこう!」という威勢の良い掛け声でスタートする。
それは、「楽しく仕事をする」ためでもあるが、それ以上に大切な意味がある。
「チームの中で会話があるかどうかって、すごく大切なんですよ。仕事で部材の受け渡しをするときに『いくよ』『受け取りました』など声の掛け合いがないと、手元が狂って部材を落とす事故に繋がる可能性があるんです。
安全に工事をするためには、まめなコミュニケーションと信頼関係が欠かせないんですよ。
日頃からコミュニケーションを取り、チームが信頼関係で結ばれているというのは、安全に工事をする上でもとても大切なんです」
奥山の目標は、若い社員職人たちの育成だ。
「施工面においても、社会人としても、そして人間としても立派に育て上げていきたいと思っています」
プロとして働く大久保恒産らしい足場職人を育てるべく、今日も奥山は奮闘する。
編集後記「『建設業界で一番人が育つ会社』の企業文化」
大久保恒産の魅力を伝えるとき、「アットホーム」と「プロを目指すゆえの厳しさ」という、一見両極端ともとれるキーワードが浮かんできます。これは、今回のインタビューも例外ではありませんでした。
取材当日、現場で働く奥山さんの姿を撮影するべく、工事現場に伺わせていただいたのですが、真剣な眼差しで新卒の社員職人たちにテキパキと指示を出しながら、あっという間に解体を進めていく奥山さんに圧倒されていました。すると、「ほら、今シャッターチャンスだよ!」とポーズを決めてくださったんです(笑)。
常に危険と隣合わせの工事現場は、何度取材に行っても慣れることのない迫力と緊迫感がありますが、奥山さんのおかげで良い意味で緊張がほぐれました。
新卒の社員職人のリーダーとして職人たちを引っ張る力強さと、周りを笑顔にする余裕と優しさを兼ね備えた奥山さん。そんな彼の物腰柔らかい姿勢に、「奥山さんは優しいから甘えちゃお〜」と甘えたくなってしまう職人さんもいるんだとか。「『そこは、違うよ』と優しく訂正しています(笑)」と笑いながら話して下さいました。
今回の取材で、奥山さんがこれまで壁にぶつかり、葛藤し、支えられ、成長されてきたお話をお伺いし、そして、奥山さんもまた愛情をもって厳しく後輩育成にあたっている姿を拝見し、大久保恒産のこの「あたたかい人間関係の中で、プロとして仕事をしていくために厳しい状況にも挑戦していく」という企業文化は、「大久保恒産というプライドに恥じないクオリティの高い足場を作る足場職人を、愛情を持って育てる」という大久保恒産の「教育」に対する覚悟が生んだものなのではと感じました。